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2004.05.04

ホエール・トーク

ホエール・トーク』はいい本だ。いい本を紹介するのはむずかしい。毛色はまったくちがうが、『ママは行ってしまった』もそう。私の好きなところは、どちらも登場人物たちの未来が生きがたい時があったとしても、それから着地できる力がきっとあるだろうと思えること。時折、1冊の本の中、つまり読むことのできる物語の中では、ひどい大人に囲まれて生活してもけなげにそれをやり過ごしている子どもたちがでてくる。しかし、物語を閉じたあと、彼らの生きがたさをどこで背負って前にすすんでいくのだろうと、やるせなさが残る時がある。あと、物語のために登場人物たちが犠牲になってりうような物語。たくさんの本があり、たくさんの物語がある。その中で、『ホエール・トーク』のように、最初から最後までゆるむことなく、くっきりしている本と出会えるのは至福。タイトルもすごくいい。私もクジラになりたくなる。
ふりはらっても、そうできないものがある。主人公、ザ・ダウ、通称T・Jは生後2年で、白人夫妻の養子になった。新しい母さんは弁護士で児童虐待を主に扱っている。父さんは収入ゼロだが、子ども相手のボランティアや時折バイクの修理をして生活している。T・Jは有色人種だからと、あからさまな差別を特定の人物から受け続け、タフな彼は親の力も借りながら学校生活をこなしている。頭もよく、スポーツもよくできるのだが、スポーツに関してはどこのクラブにも所属していない、いや所属しようとしていなかった。そうなのだが、「すべてはつながっている」。水泳チームに所属し、とある目的に向かう。つながっていることがらは、ラストにラストらしいオチをつけた。センチメンタルにならずに、物語の中の大人も子どもも、それぞれ少なくない重荷をもち、生活していく折り合いの術を身につけている。大人は大人らしく、そして格好良く。作者がここまで書けるのは、本人が作家という顔のほかに、ファミリー・セラピスト、児童保護活動の専門家としての活動があるからなのだろう。とにかく人間が描けている。そして、彼らは物語の中でうるさくなく饒舌に語っている。
いい本だ、ほんとに。

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