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2005.01.15

泣く

泣いているときに電話が鳴って
眼の下を涙で濡らしたまま
相手の冗談に私は笑った

泣いた理由は通俗的な小説の通俗的な一行で
だが泣けるということに私は救われ
そのせいで笑ったのかもしれない

笑って電話を切ったあと煙草に火をつけ
私は自分の感情について考えた
それを何と名づけることができるのかと

結局名づけようはなかったのだ
窓の外で木枯らしがうなりをあげ
私はもうどんな季語ももっていない

私をしばる制度の中で
感情は出口を見失い
そのすべてが怒りに似てくるが

それすらも私のものかどうか定かではない
眼の下はとうに乾き
やみくもに生きている事実だけが残っている

谷川俊太郎『日々の地図』(集英社)より

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コメント

BUNさん、無念で寂しくまた悔しく、とにかく悲しいです。でも「やみくもに生きる」しかないのだとも。

読んだとき、あっと思って、涙が出そうになりました。
そう、名づけようがないのですね。でも、そうなのだなと思うだけですこし慰められる気がします。谷川さん、さかなさん、ありがとう。

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