静かな大地
いろいろ読みかけ本はあるものの、最後まで読みきった今年さいしょの1冊が『静かな大地』(池澤夏樹著)。
帯広出身の池澤氏が、いまは沖縄に住み、10年の構想を経てアイヌと和人のことを書いた。自分の祖先をモデルにしているが、すべてそうではなくプロットにしたと雑誌ビーパルで言っていた。
ぐぐっとひきこまれ、最初はメモしたい言葉に付せん紙をつけていたが、後半はそんな余裕はなかった。
だれもが周りの人に優しくするのは、可能ではない。差別もなくならない。私も北海道生まれなので、大人たちが、アイヌの人たちに対する蔑視発言は子どもの頃から耳にしていた。友人が独立した花屋をするので、名前をつけてほしいとたのまれ、「きとと」というアイヌ語を紹介し、彼はとても気に入りお店の名前になった。いまもそのお店は帯広にあり、お兄ちゃん(そうよんでいる)は花の仕事をしている。お兄ちゃんが2人めの子どもが生まれて、アイヌの名前をつけようとしたら、親にひどく反対されたと言っていた。そう、こんなささやかなこと以外にも、差別はあちこちにある。しかし、この100年前の北海道における、アイヌと和人の深い溝は読んでいてほんとうにつらい。差別はなくならない。京都に住んでいるときは部落の人たちの差別が、これまたアイヌの時よりひどくあからさまに見聞きした。
前半は開拓にかけるいきごみ、学んでいくさま、そしてそれが形になっていくまでは、心がおどった。あぁ、こうして切りひらいてきたのだと。
主人公三郎は、由良の叔父にあたる。由良は開拓の話を病床の父からよく聞いて育った。そのおかげで、昔のことに興味をもち、結婚したのち、夫のすすめもあり、三郎のことを調べてまとめることにした。三郎が、福沢諭吉の教えに共鳴し、クラーク博士から農を学ぶ。そして、アイヌ人と親しく交わり、大きな牧場を経営するようになる。しかし、その成功をよく思わない輩たちから、さまざな横やりが入るようになる。アイヌは三郎の牧場では同じ働き手だ。それすら、周りはよく思わない。牧場の外の世界ではアイヌの文化をどんどん壊していくなか、三郎の牧場も……。
ラストは非常にきびしい。
誰にでも優しくしなくてもいい。嫌いな人は嫌いでいい。しかし、その嫌いを相手を壊すことにつながらない理性をもちたいと切に思った。
« 黒豆シロップ | トップページ | アイヌの昔話ほか »
« 黒豆シロップ | トップページ | アイヌの昔話ほか »
コメント