邂逅の森
『邂逅の森』を足がしびれたのに気づかないほど、ぐぐっと引き込まれて読了。時代は大正年間。マタギの仕事は貴重な現金収入をもたらせてくれるこの時代、一家の稼ぎ手になるはずだった富治は、地主の娘とのからみから、村を出される。マタギを続けることもかなわず、次の道は鉱夫。父親や兄のかわりに山に入った時はまだ少年という印象をもったのに、世間にもまれどんどん成長していく富治。しがらみから自由に生活することなどできはしない時代に、我慢を重ねて自分の生活をつくっていく。厳しい世界、厳しい世間、読みながらはぁと大きなためいきをつきつつ、人間の濃さにまた別のため息がでる。生きることに対する太い精神力を得るには時間は確かにかかるのだ。夜這いがまかりとおっていた時に、成就した娘とのことをずっとひきずるのも、また人間の業なのだろう。マタギがどのようなものかを伝える描写は、『相克の森』より迫力があるが、私は富治の人間をずっと追う楽しみをこの本で堪能した。連れ添うイクさんがすごくかっこいい。
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