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2004.11.28

おわりの雪

はじめて知る作家の本を開くときは、ほんとうに楽しみだ。今日、ポストに入っていたのは『おわりの雪』(ユベール・マンガレリ 田久保麻里訳/白水社)。まっしろくつもった雪の上をさくさく歩いてついた足音が言葉になったような、静かな小説。帯にも書かれている出だしはこんなふうに始まる。

トビを買いたいと思ったのは、雪がたくさんふった年のことだ。そう、ぼくは、その鳥がどうしても欲しかった。
この物語の中でトビの存在感はとても大きい。トビは、タカ科の大型鳥だ。この大きな鳥を少年は欲しくて欲しくて毎日店の近くでトビのそばにいる時間をつくる。父親は病気で家にふせっており、母親と3人で暮らす生活は、父の年金と少年が養老院で散歩の付き添いをすることにより得られるわずかなお金だけで、トビとその鳥かごを含めたお金を稼ぐにはそうとうの時間が必要でたやすいことではなかった。トビを売っている店の主人とはいい関係がつくれず、そのトビをどこで捕まえてきたかという、少年にとって聞きたい大事なことを、ひたすら自分の頭で想像する。父親は息子のトビの話を楽しみにしており、ひょんなことから、少年は自分でトビを捕る男の物語を語りきかせる……。
 さくさく歩いていく足音も時には止まり、時には深い穴に落ちるような錯覚を覚えるような描写がある。日本の作家でいうと、少しだけ堀江敏幸を連想した。このマンガレリはデビューしてからずっと児童書を書いていて、小説は10年たってから書き始めたという。この作家の書く児童文学もいつの日か読めるだろうか。

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コメント

そうなんです、新刊! 奥付は12月10日発行になっているので、もうちょっとしてから店頭に並ぶのでしょうか。表紙もとっても素敵。白水社の本も、どれもジャケ買いしたくなる美しさをもってますよね。この物語にぴったりで、読後、あぁ、この絵はこれねとまたあらためて眺めていました。あとがきを読んで、おそらく最初の1冊なのだろうなぁと読んでました。トビがどのページにもいるような存在感とともに、少年もよくて、うれしい1冊でした。これから、この作者の児童書の方も紹介していただけるのかしら、と期待しています。

おお、新刊! たしか六月頃、某文芸翻訳クラス関係の打ちあげで、タクボさんが最初の訳書を仕上げているところですと言っていたので、本が出るのを楽しみに待っていました。すてきな本にしあがっているようですね。文芸などの作家はもちろんですが、翻訳者も「最初の一冊」にその人の持ち味のすべてが出るなあと思っています。たぶんこの本も訳者の「翻訳文学」への愛情とこだわりが素のままで、しっかりとにじみ出ているはず。書店で見つけるのが楽しみです♪

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