ペンギンの憂鬱
本読み達人の翻訳者の方から「この本、おすすめ!」と教えていただいた。そして確かにおもしろかった。『ペンギンの憂鬱』の時代設定は1990年代。ソビエト連邦が崩壊し、マフィアが暗躍している物騒な世の中が舞台。主人公は小説家ヴィクトル、エサを満足にやれないので欲しい人には譲るという動物園から、皇帝ペンギンをもらってきて、一緒に暮らしている。ドアはどれも開けっ放しにしてある部屋で、不眠のペンギンがぺたぺた歩き、夜中にその音を聞くと、ペンギンのため息が聞こえてきそうだとヴィクトルは思う。ヴィクトルは新聞の死亡記事を書いて暮らしている。編集長から情報をもらい、それらを組み立てて記事をつくる。ペンネームは「友人一同」。本名は決して明かされず、書いた記事もいつ掲載されるのか常に未定だ。それでも、きちんとその記事が生かされてくると、ヴィクトルの日常が少しずつ変化がでてきて……。ミーシャと名付けられているペンギンは、擬人化されたりせず、出す音といえば、ぺたぺたという足音くらい。本来、南極に住むべく体が小さな部屋で暮らしているのだから憂鬱にもなるし、心臓も弱くなるだろう。ヴィクトルの物騒な日常に、ぺたぺたと歩きまわるミーシャの存在感がどのページにもはりついていて、それがおもしろい空気をつくっている。
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