遠別少年
人は複雑なもので、シンプルに暮らしたい、感情にとらわらずに生活したいと思っても、くっついて離れないものもあり――。
『遠別少年』(坂川栄治 リトル・ドッグ・プレス)を読み、久々に北海道に帰省したような気持ちなった。生まれ育ちが、かの地の私だがもう離れてくらしている年数の方がまさっている。それでも、北海道で生まれ学校に通い、それなりの人間関係もあったのだから、あの空気は忘れないし、この本を読みあらためて思い出した。観光地ブランドのようになっている北海道だが、空気がきれいだ、風景が大きいという形容詞以外に人が語るのは寒さだろう。場所によっては雪が多かったり、ひたすら寒かったりの大きな田舎。遠別に住んだことはないが、あの冷たい切れるような空気はそこかしこに流れている。ひとつめの短編「白い煙」を読んで、あぁ、これは寒い寒い北海道の小さな町の話だとすぐさま了解した。13の短編はどれも著者が過ごした遠別での少年時代が下敷きに書かれた小説で、そのどれもが潔くそぎおとされた爽快な物語。読みながら、木訥な話し口から登場する人達をゆっくり知っていく。旅行のような点と点の滞在ではなく、住んでいたからこそ語れる言葉で、土地の空気が伝わってくる。そしてその少年時代にはわからなかった複雑さが、大人の視点でシンプルに整えられ物語として差し出されている。
コメント