ジゼル・ポターの絵本
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こってりした中間色でセンスよく描かれたジゼル・ポターの新刊絵本『ゆうかんなちびのお針子』(おがわえつこ訳 セーラー出版)は、グリム童話の再話。文章を書いたメアリー・ポープ・オズボーンは既刊『ケイトと豆のつる』同様、基のお話と違う女の子や女性を主人公において、昔話のエッセンスをみせてくれる。『ヨーロッパの民話』でマックス・リューティは、「民話は、話の主人公に困難な課題をあたえ、遠くの地で危険に遭遇するように旅に送り出します」と述べ主人公は物欲で行動するのではなく、「冒険することだけが目的なのだ」と示している。このお針子さんも、ジャムをつけたパンを食べている時にハエの遭遇し、ちょいとひとたたきしたら一度に7匹もやっつけてしまい、それがうれしくて、旅に出ていく。そして、知恵と勇気で旅先での難題を解いていく様は痛快。おがわえつこさんの整った訳文で絵本を楽しめるのはとてもうれしい。 先に刊行された『ケイトと豆のつる』も、一読すると耳に「フィー ファイ フォ ファム」という音が残る、再話絵本。ポターの絵が物語をぐんとひきたてる。 そして、その絵を描いているポターの自伝的絵本が『私が学校に行かなかったあの年』。7歳の時、まる1年学校へ行かず、家族4人の人形劇団“ミスティック・紙のもうじゅう座”でイタリアへ巡業に出たのだ。一家4人の巡業の思い出、冒険の数々をポターは日記に書き留め、大人になり画家になったいま、絵本の形で私たちに思い出を見せてくれた。日記の一部は見返しでみることもできる。知らない国で、家族ぺったり生活し、劇団で働いて過ごす濃密な日々を。カバー裏には1978年、巡業地での家族スナップ写真があり、ほんとうにあったことなんだなぁとしみじみする。わが家の子どもたちも、読んだあと、この写真をみて「え、これぜんぶほんとうにあったんだ!」とながめていた。訳されたおがわさんが、ほれこんだポターの絵本だ。 |
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