いつもそばにいるから
『いつもそばにいるから』
バーバラ・パーク著 ないとうふみこ訳 求龍堂
ドラマチックなシーンではない。淡々と描写された夜の散歩のくだりで、私はしゃくりあげてしまった。そして、最後の17ページをのどをひくっとさせながら読みきった。大きなささやかなシーンがそこにあり、そのささやかさに私は心あたりがある。
ジェイク・ムーンはお母さん、おじいちゃんとの3人暮らし。物語はジェイクの中学生活を年代ごとに語っている。正確には名付け親でもあるおじいちゃんのスケリーが、だんだんといままでのスケリーと違ってきてしまってからのジェイクの学校生活が描かれている。その前までのスケリーは人を励ますのが上手で、スケリーにほめられると不思議と自信がついてくるほどだった。「えらいぞ。おまえは、ほんとうにたいしたやつだ」こういわれると、ジェイクはそれだけでうれしくてたまらなかった。生活に変化がおとずれてから、ものごとはシンプルにはすすまず、あちらこちらにしたくもない寄り道をしている感じの日が続いた。ティーンエイジャーとしての楽しみより、タフな生活が毎日をおおう。では、その生活はつまらないだけだったのか――。
長田弘の詩(「ぼくの祖母はいい人だった」)にこんなくだりがある。
「何もかも過ぎるだ」祖母の言葉を、いまもおぼえている。
「けど、そうなくちゃならねえことは、そのまま残るだよ」
ジェイクの物語はこの詩のように、そうなくちゃならないことがそのまま残ったことが語られている。 それぞれの子ども時代があり、ジェイクにはジェイクの家庭事情があった。家族のつながりが、その事情で深まったり弱まったりもする。変化なんてものは、日常の中にそうそうあるものではない。流れていく日々の中で、ささやかに起こりその波紋で大きな変化にもなる。しかし大きな変化の結果は概してささやかなものかもしれない。この本を訳された方が本書のテーマを「ささやか」かなと言っていたが、私もそう思った。でもそのささやかは愛しい。大きなささやかさが描かれているこの物語が私にとって大事な物語になった。
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ジェイクにはおじいちゃんがいた。みんなからスケリーって呼ばれるおじいちゃんは最高で、父親のかわりとなってジェイクを信じ、いつもいっしょにいてくれた。ところが、ある11月のこと、スケリーがア...... [続きを読む]
きむらさん
私がお礼を言うのもなんですが(^^;ブログでのご紹介ありがとうございました。物語の輪郭をじっくりなぞることで、また浮かび上がるものがあるように受け取りました。
「ささやかでありながら大きなステップ」ってなかなかふめないですよね。家族とは、ときにかくも面倒で重く、しかしまた複雑な愛情の源でもあり。平穏な家族の方がすくないのかもしれないですね。
投稿: さかな | 2005.11.14 07:45
こんにちは。
自分も、子どもの頃、家にしばりつけられ
ていた時期、があったので、ジェイクの
気持ちがわかります。また自分の家族を、
恥ずかしく思ってしまうことの、痛ましさも。
おだやかに寄り添っていられる、という
ことができるようになる、ことへの成長
は、ささやかでありながら、すごく大きな
ステップなのだと思うのです。
なんだか、うまく書けなかったのですが、
良い作品でしたね。
投稿: きむらともお | 2005.11.13 12:09
BUNさん、そうえいば昨日は比較的新刊の入るのが早そうな書店に行ったのだけどまだだった。でも、配本されているからぼちぼちですね~。
投稿: さかな | 2005.10.25 20:05
さかなさん、エッセンスをすくいとったすてきなご紹介をありがとうございます。
ぶなの木さん、うれしいです。どこかで見かけたら、ぜひぜひ手にとってみてくださいませ。
……といいつつ、まだここら辺ではほとんど見かけないのですが。ほんとに出ているんでしょうか(^^;) さがしにいっちゃうぞー。
投稿: BUN | 2005.10.25 12:30
そう言っていただけると恐縮です。
ぼちぼち店頭に並んでいるので、見かけましたらぜひぜひ。
投稿: さかな | 2005.10.25 11:46
『そのささやかさに私は心あたりがある』という、さかなさんの一言で、たちまちこの本が読みたくなりました。さっそくメモりました。
投稿: ぶなの木 | 2005.10.24 15:19