うたの心に生きた人々
『うたの心に生きた人々』は1967年にさ・え・ら書房で刊行されたあと、1994年にちくま文庫に収録。1999年に童話屋から分冊で刊行されています。最初の形では、与謝野晶子、高村光太郎、山之口貘、金子光晴の詩人像が描かれているので、分冊ではなく1冊の形で読みたいと、ちくま文庫版を古書で入手し読みました。詩人である茨木のり子さんにとって、初めての書き下ろし作品だったとあとがきで書かれています。書かれた当時、存命だったのは金子光晴氏のみ。私は氏の『若葉のうた』がとても好きなのですが、ここに書かれている詩人のなんと破天荒なこと!
若いころはヨーロッパ・東南アジアをさまよい歩き、太平洋戦争中は、信念をつらぬきとおしてすぐれた反戦詩を書きつづけた詩人。
茨木さんは上のように金子氏を紹介しています。莫大な遺産を相続したあと、惜しげもなく鉱山にかけて大損したり、親族の借金に使われたりとさんざんなのですが、骨董商に誘われてヨーロッパへ行き、ベルギーに滞在して原書で詩集を読破してゆくさまが後の詩人に大きな影響を与えていること、結婚後の貧乏海外旅行の様子など、たくましさとスケールの大きさに感嘆しました。
山之口貘氏の生涯もすごい。これを読むと山之口貘の詩をむしょうに読みたくなります。ちくま文庫で刊行される時には、学生時代にこのさ・え・ら書房版を愛読された方が編集を担当されたそうで、これを読んで山之口貘と金子光晴の詩を好きになったそうです。その気持ちがよくわかります。
生涯、貧乏神をふりはらうことができず、借金にせめたてられながらも心はいつも王さまのようにゆうゆうと生きぬいた愛すべき詩人。
博学と無学
あれを読んだか
これを読んだかと
さんざん無学にされてしまった揚句
ぼくはその人にいった
しかしヴァレリーさんでも
ぼくのなんぞ
読んでない筈だ
詩人の伝記では『我が愛する詩人の伝記』(室生犀星著・中公文庫)もおもしろいです。こちらは北原白秋、高村光太郎、萩原朔太郎、堀辰雄ほか11名の詩人について書かれています。
せいさん
さ・え・ら書房版を読まれたのですね。図書館にもなかったので、私もいずれ実物をみたいと思っています。さ・え・らさんのノンフィクションものは非常に質が高く、復刊する時は一般書になっていますね。ひとむかしまえの子どもたちは、いまの一般書を読んでいたんですね。
山之口貘さんについては、私もはじめて知ることばかり。これを読んで詩集を借りてきました。この本で山之口貘さんのファンを確実に増やしたと思います。
でもって、室生犀星の書いた詩人たちはまた別の横顔をみるようでおもしろいんですよね。
感想をこうして語り合えてうれしいです。TBもありがとうございます(^^)
投稿: さかな | 2005.12.17 21:17
ご紹介の二冊、図書館で取り寄せて、今日ようやく読みました。どちらの本も作者のクセがあるなぁ、と微笑ましく思いながらも、ぐっと感動して読みました。ご紹介、感謝。
山之口貘、たしかに彼にとって日本語は「外国語」に近いものだったのですね。盲点でした。
投稿: せい | 2005.12.17 00:24
茨木さんの詩ではなく文章を読んだのは『詩のこころを読む』(岩波ジュニア新書)でした。高校を卒業したお祝いに、児童書専門店のお仲間さんたちがプレゼントしてくださった1冊でしたっけ。
ずっと、ミーハーに本について語りたいなぁと思います。だって好きなんですもの。
投稿: さかな | 2005.12.04 16:45
「自分の感受性くらい・・・」と、最近、またつぶやけるように
なってきました。すこし自信回復したのかもしれません。
自分が全く信じられない水中でもがいてましたが、水面に
顔を出して、少し、呼吸ができるようになってきた気分です。
なにを拠り所にして、書や人を評するのか、という疑問には、
感受性、としか応えようがないのですね。
茨木さんの文章も、また読みたいなあ。
投稿: きむらともお | 2005.12.03 21:23