アリス・マンロー 『イラクサ』
9つの短編、それぞれを再読しながら読んだ。でも読み終わってしまう。だいじょうぶ、また再読すればいい――。それでも、再読しながらも読み終えてしまった今、うれしく寂しい。
年を重ねる身を拡大鏡でうつされているように思える瞬間があり、その大きさと小ささを改めて意識する。私も今はどこ、と。生きていく上で、毎日なにがしらの感情がある。うれしいことも腹立たしいことも。それらを表す言葉を私は知らない。アリス・マンローは知っているのだ。その感情に色をつけるとしたらどんな色かを。毎日の事が書かれている。それでも、当事者はその毎日がどんなものかを流されていく時間の中できちんとは見ていない。幸せな時間ばかりが流れる人生などなく、時間はいつも複雑だ。その複雑な、例えば1年を描く、1日を描くのがアリス・マンロー。これからも何度も何度も再読する一冊と出会えた幸福をなんと言えようか。
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