果樹園
『果樹園』 ラリイ・ワトスン 栗原百代訳 ランダムハウス講談社
画家のミューズとなったのは、結婚生活が冷たいものになりつつあった、ある夫婦の妻。画家の妻もかつて確かに彼のミューズであった時もあるのだが、あくまでもそれは過去のこと。その後、画家は絵を描くために意識的、ときに無意識的に常にモデルを欲し、得た者とベッドを共にしてきた。しかし、それは絵を描くことにたまたま付随してきたもので、自然な流れであった。しかし、ソニヤはいままでのモデルとは違い、画家は征服することができない。つかめないままに描き続け、とうとう起きてしまったある事件に画家は安堵する自分がいるのを確認する。
ミューズが必要な画家の気持ちは不遜ながらよくわかる。そしてまた、妻を裸体のモデルにすることに嫌悪を覚えるソニヤの夫の気持ちも。しかし誰の気持ちがわかろうとも、それは、もつれた糸をほぐすことにはつながらない。ソニヤと夫の間にうまれた溝はなぜうまらないのか――。画家の妻ハリエットとて、うまらないものを積もらせている。それでも夫の乱交にストレスをもちながらも、日々変わらない生活を選ぶ。飼い慣らすことのできない感情とつきあうことがまた人生なのだ。
すみずみまで人生に満ちている物語。
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