ある日系人の肖像
『ある日系人の肖像』 ニーナルヴォワル 本間 有訳 扶桑社ミステリー
主人公のジャッキー・イシダはロースクールの学生。日系二世の祖父、フランク・サカイが病気で急逝し、叔母から遺言状の内容について相談を受ける。孫離れできない祖父を最近では遠ざけていた罪悪感もあり、ジャッキーは遺言状に残された人物を捜すことを叔母に請けあう。そしてわかってきたことは……。
著者は、日本人の母親と白人であるアメリカ人の父親のあいだに生まれた日系作家。ロスのクレンショー地区にあるボウリング場での光景をみたことがきっかえで、本書の構想を得たという。
ジャッキーの調査により、祖父の若かりし頃の姿が見えてくる。そしてその時代の過酷さ、哀しみ、苦しみ、人種問題。重い題材から目を離さずに読ませる筆力がすごい。あまりの生々しさに時にページも目も閉じた。しかし、すぐにまた小説の世界に戻りたくなる。フランク・サカイに何があったのか。ジャッキーはどうやって謎を解きほぐすのか。小説は、祖父の視点、叔母の視点、ジャッキーの視点、知人の視点と、時代をさかのぼったり、現代にもどったりしながら、当時と今を重層的に構築していく。読めてよかった一冊だ。
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