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2006.10.19

児童文学

 今江祥智さんが出されていた「児童文学」という雑誌がある。A5くらいの大きさの小ぶりなもので、当時今江さんが教えてらした短期大学が発行先になっていた。1984年から発行先は四日市のメリーゴーランドに移る。1985、1986と3年連続で出たあと1年おいて1988に出て、そこで長く休眠状態になった。
 18年たった今年2006年、1992年に出そうと思っていた1992をかっこでくくって2006が出た。

 私は1984年頃に、この編集同人のおひとりと文通していて、愛読者のひとりでもあった。当時、バックナンバーは入手できるものは全部そろえたのだが、創刊号、二号は当時もう品切れだった。手元にある古いのは1973号。通巻でいくと3号のもので特集は幼年童話。お値段300円。これはいまもメリーゴーランドで入手できるよう。瀬田貞二さんも執筆されていて、いま読み返しても示唆に富む内容だ。その「幼年文学の表現についての覚書」は表現の注意からはじまり、幸田露伴の『普通文章論』から幼年の文学にことごとくかなうという一文を引き、最後に蛇足とことわりつつ自身による具体例を示す。

形容詞はつつしむ。とくに価値的な修飾語は、ほとんど使ってはならない。「かわいい女の子」「かわいいお花」などは常に正確でない。その子がかわいければ、そのかわいさを的確に具体化して、読者に「かわいい」と感ぜしめなければなるまい。この辺が一ばんセンチメンタルな溶液化、アイマイ化が進む原因となる。

など、他にも示唆に富む。矢川澄子さんが一冊の本でとりあげているのは『世界童話大系』、金田一氏の訳文について、とうとうと語られいま読んでもおもしろい。

 児童文学2006の特集は「いま古典を読む」。表紙、挿画は変わらず長新太さん。かっこでくくられている1992とあるように、特集原稿のほとんどは14年前に預かった原稿のよう。14年の時差を感じる。とくに川島誠さんのが今年のだったらよかったなと思う。

 そんな中、今江さんの文章は数少ない今年のもの。

 改訳も新訳もできない国産もの(本文では強調点)は、文体が古びたり中味の鮮度が落ちたりすると、一挙に過去のものに組み入れられてしまうおそれがある。絶版になるのはそういった本である。そこを生きのびる力がある作品だけが三十年、四十年と生き続けていき(読まれ続けていき)準古典として更に生きのびることになるのではないか。
 それを糧にした子供たちが二十年後三十年後に子供の本の書き手になる。

 その他に創作童話が推薦者の名前とともに6作収録されている。いずれもメリーゴーランド童話塾生徒作品。巻末に書店スタッフによるブックリスト付き。税込み1260円+送料。

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コメント

shokoさん

バックナンバーはなかなか貴重だと思います。

高校の時、今江さんに若い時は長編を読むといいとすすめられ、ロマン・ロランの『魅せられたる魂』を全巻読みました。それからは私が周りの友人にすすめ、2人ほど全巻読んで、あれこれおしゃべりしたんです。すっかり色あせたその文庫本をみると、当時を思い出します。

先日メリーゴーランドに初めて行ってみたのですが、この雑誌置いてあるのをみました。雑誌というより、本という印象でした。あのとき、手にまではとったのに、買っておけばよかったなあ。

今江さんは高校のとき、学校に講演にきてくださったことがあり、とても気さくでやさしい、でもおもしろい方という記憶があります。

瀬田さんの具体例にはこういうのもありました。

 一人称の文章は、なるべく控えよ、心理的にもたれる。
 文の途中に「ね、おもしろいでしょう?」などと勝手な思想の催促や呼びかけを挿入すると、どっと隙間風がはいる。

おっしゃるように、「書く」「伝える」「話す」いずれもの働きかけをおろそかにできないですね。的確な具体的描写ができないと、つい「楽しい」「かわいい」という形容詞に頼ってしまう、自戒をこめました。

二三日前、勉強になれば…とある「おはなし会」を見学しました。2冊目に読んだ本のなかに、夕焼けが見開きで登場したのですね。そこで読み手がテクストに関係なく、「わあ、きれいな夕焼けねえ」と子どもたちに話し掛けていたのです。「うわあっ、こりゃいかん。かんべんしてくれぇ」と思いました。「曖昧」とはお話が違いますが、自分の価値観を押し付ける伝え方に大いに問題ありと思いました。
伝え方を考えていると、作家の表現への神経の使い方も実にさまざまだと気づかされることもあります。「感じてもらうため」の表現は、「書く」「伝える」「話す」すべての働きかけにつながりますね。

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