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2007.03.15

七番目の手紙

グレゴリー・コルベールの魅力(2)

 

 Ashes and Snow 日本語にすると「灰と雪」。なぜ、ashes and snow なのか。それは映像に流れるナレーション、そして小説を読むとよくわかる。いっきに、灰と雪まではたどりつけないので、少しずつ近づいてみる。

 言葉がなくても写真や、映像のみ、そして音楽で充分つたわるものはある。しかし、グレゴリーの小説は、映像作家が手すさびに書いたものではない。ゆたかな才能は、文芸にまでおよんでいる。

 

 この世のはじめには、大空いっぱいに空飛ぶゾウがいた。重い体を翼で支えきれず、木のあいだから墜落しては、ほかの動物たちをあわてふためかせることもあった。
                              七番目の手紙より 

 小説は手紙で綴られた形をとっている。旅に出た夫が妻にあてた365通の手紙。中には、風で飛ばされてしまったなどの理由でいくつか抜けているものもある。

 最初の手紙は「ゾウのお姫さまへ」と妻によびかけてはじまっている。旅の様子を語りかけるようなものであったり、神話を語っているかのようなものもあったり、眠っているときに見た夢の話だったり。なかでも、七番目の手紙はとても詩的なもので、小説以外の Little book 形式の写真集にも引用されている。グレゴリーにとってゾウは特別な動物で、なんだろう――、親友といってもいいのだと思う。展覧会でもゾウの写真は多く、大きな和紙に焼き付けられたゾウの目は忘れがたい印象を残す。

 

 八十番目の手紙 ――

  ゾウの目は、もの言わぬ愛の舌だ。

 

「人間と動物の関係を内奥から探求する」

これはグレゴリーが「Ashes and Snow」に着手した1992年に目指したことだという。写真を見ると、動物と人間の境界はかぎりなく取り払われている。同じ視線、同じところに立ち、泳ぎ、ダンスする。

 

 八十八番目の手紙 ――

  どうか守護ゾウたちが、自然のオーケストラの演奏家たち皆とつながりを持ちたい、というぼくの願いを、聞き入れてくれますように。ぼくはチーターの目で見たい。ゾウの目で見たい。ステップのないダンスに加わりたい。

  ぼくはダンスそのものになりたい。


翻訳はアリス・マンロー(『イラクサ』、『林檎の木の下で』(近刊))などの翻訳で知られている小竹由美子。

続く
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