チューニング
著者、岡崎さんの名前は古本関係ではよく目にするし、ブログもたまーに読んでいた。でも、注目するようになったのは、「ちくま」で連載されている、「古本屋は女に向いた職業――女性古書店主列伝」を読むようになってから。文体が適度にカジュアルで、それでいて品があり、書かれていることが頭にすっすっと入ってくる気持ちよさがある。
この新書も出たことは知っていたのだけれど、たまたま京都の友人と電話で話した時に、すごくいい!と言われ、電話を切ったあとすぐオンラインで注文したのだった。で、読むと確かにおもしろかった。
「チューニングには慣れが必要」というのは、自分でも無意識にしている行為を言語化されたすっきり感をもつ。想像力や自分流に翻案することで、読んでいるものとの距離を近づけていくことを、作家の保坂氏がチューニングという表現を用いていると紹介してくれる。私も、仕事で生原稿を読ませていただくのだが、生原稿に限らず、はじめて読む作家作品もそう。ページを繰るごとに、チューニングがあってきて読むスピードもあがっていく。ただやみくもにスピードがあがるのではなく、大事なところではちゃんと目がとまるように。
小説の冒頭でぴたりとそれがあうと、あとがとても楽しく読める。講談社児童文学新人賞佳作を受賞した『タイドプール』(長江優子著)の最初の一行を読んだときもそう思った。
インターホンがなったのでドアをあけたら、お母さんがとどいていた。
まるで宅配便が届いたかのような描写で印象づけられた一行は、私にページを繰る安心を与えてくれた。山本蓉子さん挿画のスミレがかわいらしく映えている表紙をくると、この一行が出迎え、あとはするするっと読める。父親が再婚し、ママハハとの生活がはじまる少女の生活。うまくいく時とぎくしゃくする時のバランスの悪さがよく描かれ、少女の視点とともに、大人へのまなざしも忘れていない作品だ。
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わぁい、ふじもとさんとシンクロなんですね。おもしろかったです。すいすい読めて、印象に残る言葉も多々あり、読んでよかった一冊でした。『ポール・オースターが朗読するナショナル・ストーリー・プロジェクト3』もおもしろそうですね!
投稿: さかな | 2007.04.05 08:59
ああ、嬉しい。さかなさんとシンクロです。この『読書の腕前』はわたしも書店で見かけてずっと気になっていて、つい先日ネット書店で『ポール・オースターが朗読するナショナル・ストーリー・プロジェクト3』などと一緒にまとめて、注文したのが届いたばかりです。まだ最初の1ページを開いて眺めただけですが、こちらの日記を見てからはいっそう、読むのがとても楽しみ……。
投稿: ふじもとゆうこ | 2007.04.04 17:47