サクラ

サクラ

キム ファン文
学研 (2007.3)
ISBN : 4052025261
価格 : ¥1,260

　私の住んでいるところでは、ようやく桜が咲き始め、子どもが家に帰ると、近くの木を見ては「だんだん咲いてるね」と楽しみにしている。この本のサクラはゾウの名前。2003年、宝塚ファミリーランドが92年の歴史を閉じ、93種600匹の動物たちがそれぞれ引越していった。サクラは大きな体をもつゾウなため、なかなか次の場所が決まらなかったという。その中で決まった行き先が韓国のソウル大公園の動物園だ。

「サクラ長い間ありがとう　元気でね！」というイラスト入り垂れ幕つきで、フェリーに乗って韓国へ渡って行った。

　このノンフィクションの著者は、キム・ファン氏。サクラが元気に韓国で暮らしているかを気にしているうちに、日本から韓国に渡ったゾウたちの物語に深く入っていくことになる。

　桜は春の到来を感じさせ、日本人にとってうれしいイメージをもつ木だと思う。しかし植民地支配された韓国・北朝鮮では日本の象徴ともいえる、桜を切る運動がおこりどんどん姿を消していったという。それ以外にも桜の起源でも論争があるらしい。

　そいういう歴史をふまえて、キム・ファン氏は、おそらくゾウのサクラもきっと改名されているのではないかと推測した。しかし、サクラはサクラのまま元気だった。

　ゾウを通して、日本と韓国の歴史をわかりやすい言葉で、そして何よりサクラを案じる気持ちが文章から伝わってくる。不勉強な私は桜の木にまつわる歴史もこの本で知った。写真やイラストも豊富に挿入され、あとがきまで含めてしっかり心に残る。

　第１回子どものための感動ノンフィクション大賞受賞作品。