

『物語が生きる力を育てる』 脇明子
ISBN 978-4-00-025301-7 定価 本体1600円+税 岩波書店
先日届いた「図書」に書かれていた脇明子さんの文章をラング童話集を紹介するのに引用した際、新刊である『物語が生きる力を育てる』も読まねばと思ったのです。よさそうな予感は大当たり。3年前に刊行された『読む力は生きる力』の第二弾という位置付けで、前著が好評であちこちに講演などに行き、さまざまな場所での読む現場を見聞きし、考察を深めたのが本書です。感覚的にそうかなと思っていた事柄が、的確な文章で差し出され、読んでいて、私自身いろいろ整理できることが多く、抜き書きしたい箇所がいっぱいになりました。
子どもたちに本を渡すこと、読むことが大事というよりも、子どもたちがちゃんと育つことが大事だということ。それには、本よりも何よりも実体験が重ねていくこと。と、著者がそう思うにいたったことが、わかりやすい言葉で順々に説明されていきます。しかし矛盾するようですが、その実体験をもつことが困難な現代において、子どもたちを支えていく本物の物語もやはり必要なのだということも書かれているのです。
ここではたくさんの昔話、民話をひきながら、具体的な本もたくさん紹介されています。大好きなデ・ラ・メアも紹介されているのがとてもうれしいです。巻末には、紹介した本の一覧もあり、現在入手が難しい本も含めて入っているので図書館でも探して読むことができそうです。
興味をひかれたのは「不快感情の体験と物語の役割」です。昔の子どもならわざわざ言ってもらう必要はなかったことだろうとして、著者はこう言っています。
人間が怒り、憎しみ、妬み、悲しみ、欲求不満、さびしさ、落胆、恨みなどといった不快な感情に振りまわされ、破壊的な行動に走ったり、苦しみを増幅させたりしないですむようになるためには、幼いうちからある程度そういう感情を体験し、まわりの年長者を手本にしたり、うまく手助けしてもらったりしながら、少しずつ感情処理の仕方を学んでいくしかない、ということです。
著者はゼミの学生に「不快感情に襲われたとき、あなたたちはどうするのか」とたずねてみると、テレビ、音楽、ゲーム、マンガ、ネットという答えがあり、それらはとても「便利な不快感情消去マシーン」になっていると書かれています。確かにこれは得策ではあるけれど、子どものうちから、そういうやり方に頼っていいのかと疑問を投げかけています。自分の不快感情に向きあい、消去マシーンに頼るのがいいのか、正面から対処すればいいのかの見きわめは学習して得ていくしかないのではというくだりは、わかっていた事のように思えるのですが、きちんと言葉として納得がいきました。学習もせずに、消去マシーンを便利に使うだけの生活はどうだろうと気づかせてもらったのです。「力のある物語」は、登場人物や状況に感情移入させながら、擬似的な体験を蓄積していけると私も思います。
版元の岩波書店サイトで、目次と一部が読めるようになっています。[版元Link]
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