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2008.05.26

究極の孤立


 アンドルー・ラング世界童話集の4巻が刊行されました。今回はきいろ。
 そういえば、偕成社文庫からも今月下旬から、ラング童話集が順次出るようです。

 東京創元社版のラング童話集はとにかく美しいつくり。表紙の絵が毎回どの話しのものか楽しみ。今回は「北方の竜」より(【出典 クロイツヴァルト『エストニアの昔話』より/おおつかのりこ訳】。
 竜を退治するために、魔女姫に近づき、大事な指輪を手に入れた若者の話です。美しい魔女姫の変化はもの悲しいものもあり、最後の問いにはふーむとしばし悩む。

 この話の次に入っている「黄金のカニ」(【出典】シュミット『ギリシアの昔話』より/杉本詠美訳)は、ユーモアある冒頭がとっても楽しい。挿絵もおもしろくって、読み返すとぷぷっと笑いが出る。

 「飛ぶ船」も収録。(【出典】ロシアの昔話/大井久里子訳)。この話は絵本はランサムの再話、ユリ・シュルヴィッツ絵で1969年のコールデコット賞を受賞した『空とぶ船と世界一のばか』で知っている人もいるのでは。
 民話の勉強をしていた時、この絵本の話は民話の形をとてもきれいにあらわしていると教わった。マックス・リュティが"The European Folktale"の中で、民話には究極の孤立、徹底的に孤立することで、徹底的な連結があると書いていますが、「飛ぶ船」の末むすこはとんまだからこそ、両親にも大切にされず兄たちからもバカにされ、家族の中では孤立している。でも冒険にでた時はひとりだからこそ、“超自然的な力”と接触でき、幸運を得る。

 昔話の奥深さを知って読むと、またいちだんと楽しめます。

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コメント

くるりさん

私も最初は究極の孤立が連結を生むというのが、いまひとつ理解できていなかったのですが、ランサムの絵本を読み、解説してもらい、とても納得しました。この話はものすごく読み込んだので、とても思い入れがあります。

ロシアの民話、特にランサムの再話はピカイチなので、機会がありましたら『ピーターおじいさんの昔話』(パピルス)などぜひ読まれてみてくださいませ。ランサムといえば、「ツバメ号とアマゾン号」シリーズですが、民話の再話の才能もすばらしいです。

さかなさん

「飛ぶ船」についての興味深いお話、ありがとうございました。
「究極の孤立」にありながら、いや、あるからこそ、冒険の局面では「徹底的な連結」がある。人間の生きる力、根源的な生命力とは、本当はそういうものであったのですよね。
今、何か、胸がつまるような気持ちになります。

訳していたときには、愉快で痛快なお話とただ楽しんでいましたが、その奥深さに思い至らず、今さらながら勉強になりました(後悔)。

NONさん

昔話、民話はほんとうに奥深いので、研究的な意味合いで読むのにも楽しいですね。

かえる、めごいでしょう、ふふ、私も気に入ってます。

ご紹介ありがとうございます。ここのブログにのせていただくと、なんだかさらに美しく見えるからふしぎです。

究極の孤立。わたしもなるほどと感心しました。そういったキーワードをたてて見ていくおもしろさ、そしてほんとうにその通りだなという共感のふたとおりの意味で感心です。

上の、たんぼの中のカエルさん、たのしませていただきました。田植えがおわりましたね。

BUNさん

本当にどの巻も、はっとする美しさ。きいろも、黄色黄色していなくて美しいですよね、うっとり。

ユニークで、昔話らしい、さっぱりとシビアなところもありで、どれも楽しいです。最初の「猫とネズミのふたりぐらし」も、「世の中とは、えてしてこういうものだということだ」とあっさりまとめているのも、くすりと笑えます。

「黄金のカニ」は何度読んでも笑えます。BUNさんが引用された「おおかたどこかの王子が~」もなんて話のわかる王さまだろうと思わず感じ入ってしまいましたですよ(笑)。

ご紹介ありがとうございます。今回はきいろの色合いにうなりました。きれいだ~(自画自賛? いや、ちがう……)
究極の孤立。なるほど~。「黄金のカニ」は、わたしも吹き出しました。ペチコートも笑ったけれど、「おおかたどこかの王子がすがたを変えているのだろう」もおかしかったなあ。今回の「きいろ」は、わりといろんな文化圏のちょっとユニークなお話が多くてたのしいです。

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