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2008.05.16

きのうの少年

きのうの少年』  
 小森真弓 福音館書店 ISBN 978-4-8340-2350-3 定価1680円(税込)

 アキがいて、タケやんがいて、達弘がいて、ケイトがいる。小学校6年生、気の合う4人は釣りをしたり、サッカーをしたり、一緒にたくさん時間を過ごしていた。そんな4人の1年間が描かれている。
 すっ、すっと話が進む。ケイトって男子だっけ? アキは女子だよね、と読みながら確認。あえて誰がどんな子だという説明することはなく、物語の筋の中で、ふうっと浮かんでくるように、タケやんや、ケイト、アキや達弘の輪郭がみえてくる。4人の家族もみえてくる。お父さんと2人暮らしのアキ、おいしい手作り料理を出している食堂屋さんのケイトの家族、タケやんはいつも家族一緒にいることが多い。達弘にはお姉ちゃんがいる。子どもにとって、ひとつの世界である家族も、4人それぞれに抱えているものがある。
 日常を少しずつすくいとって物語になっている。誰かの家族だけの苦しみがあったり、喜びがあったりではなく、ふだんの生活の中でおこる波風も等身大に紡がれる。ひとつの事だけをクローズアップすることはなく、積み重ねられていく日々、その時々でみえているものが差し出される。

 料理上手で父子家庭の弟を心配するアキのおばさん。
 洒落た料理をつくる食堂のセイコさん。
 釣りの名人のアキの父さん。
 どの父さんも母さんも姉ちゃんも妹もみんなちゃんと物語の中で生活している。
 みんなにまなざしがそそがれている。
 そんな話が書かれていた。

「(前略)子どもの欲しがる物を与えるのは、親の役目じゃないって」
「じゃあなにが役目なの?」
とうさんは、ふーっと煙を吐いた。ため息みたいに聞こえた。
「セミがどれくらい高い場所にいるのか、いっしょに見ることだったのかもしれないな……」
 今もはっきり目に浮かぶ。セミはとんでもなく高い場所にいた。木はまっすぐに伸びていて、その先に抜けるような空があった。

 

 作者の小森真弓さんの単行本デビュー作。全国児童文学同人誌連絡会発行の「季節風」を主軸に数々の作品を発表しているとある。そう、もうずいぶん前から書いていたのだ。それがこうして、手にとりやすい本の形で上梓された。うれしい、うれしい。『きのうの少年』すごくいいです。

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