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2008.09.24

キュリー夫人伝

(ここから引用)

 去年の春、うちの娘たちは蚕を飼いました。わたしはまだとても体調が悪くて、何週間もなにもできず、蚕が繭をつくるのをじっと観察していたのです。それがとってもおもしろかったの。活発でいっしょうけんめいな蚕たちが、熱心にがまん強く繭をつくっていくようすには、ほんとうに感動しました。そうして「わたしも同じ仲間だわ」と思ったのです——仕事に対しては、わたしのほうがずっと手ぎわが悪いとしてもね。蚕たちと同じように、わたしもいつも、ひとつの目標にしんぼう強くむかっています。そこに真実があるという確信は、少しも持てないまま。人生はうつろいやすく、はかなく、あとにはなにも残らないと知っていますし、人生をまったくちがうふうにとらえる人たちがいることも、知っているからです。それでもなおそこを目ざすのは、蚕が繭をつくるのと同じように、なにかがわたしをそうさせるから。あわれな蚕は、たとえ完成させられなくても、繭をつくりはじめなくてはなりませんし、やはりせっせとはたらきます。そうしてその仕事をやりとげられなければ、羽化することはできず、報いられることなく死んでいきます。
 いとしいハーニャ、どうかわたしたちが、それぞれに自分の繭を紡いでいくことができますように。「なぜ」とか「なんのために」などと、問うことなく。

〈マリー・キュリーより姪ハンナ・シャライへ 一九一三年一月六日〉
(引用ここまで)

『キュリー夫人伝』(エーヴ・キュリー/河野真理子訳/白水社)より

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コメント

キュリー夫人伝は一読の価値ある伝記本です。身内の方が書かれたからこそのエピソードもあり、翻訳もすばらしい。

引用した蚕をみつめるキュリー夫人のまなざしが、真摯ですばらしいですよね。蚕を実際飼ってみて、その繭づくりを目の当たりにしてからの再読だったので、よけいにじーんときました。

キュリー夫人、出たんですね。引用の文章にひたすら感動してしまいました。「なぜ」「なんのため」と人間はつい問いたくなってしまうものですよね。河野さんの訳もすばらしいです。

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