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2009.04.13

なぜについてのこたえ

「文藝春秋」2009年4月号 「僕はなぜエルサレムに行ったのか」(村上春樹)より

「システム」という言葉にはいろんな要素があります。我々がパレスチナの問題を考えるとき、そこにあるいちばんの問題点は、原理主義と原理主義が正面から向き合っていることです。シオニズムとイスラム原理主義の対立です。そしてその強烈な二つのモーメントに挟まれて、一般の市民たちが、巻き添えを食って傷つき、死んでいくわけです。
 人は原理主義に取り込まれると、魂の柔らかい部分を失っていきます。そして自分の力で感じ取り、考えることを放棄してしまう。原理原則の命じるままに動くようになる。そのほうが楽だからだです。迷うこともないし、傷つくこともなくなる。彼らは魂をシステムに委譲してしまうわけです。(p.166)



 ネット上では、僕が英語でおこなったスピーチを、いろんな人が自分なりの日本語に訳してくれたようです。翻訳という作業を通じて、みんなが僕の伝えたかったことを引き取って考えてくれたのは、嬉しいことでした。
 一方で、ネット空間にはびこる正論原理主義を怖いと思うのは、ひとつには僕が一九六〇年代の学生運動を知っているからです。おおまかに言えば、純粋な理屈を強い言葉で言い立て、大上段に論理を振りかざす人間が技術的に勝ち残り、自分の言葉で誠実に語ろうとする人々が、日和見主義と糾弾されて排除されていった。その結果学生運動はどんどん痩せ細って教条的になり、それが連合赤軍事件に行き着いてしまったのです。そういうのを二度と繰り返してはならない。(p.168)

文藝春秋 2009年 04月号 [雑誌]

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