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2009.05.31

『グリーンフィンガー 〈約束の庭〉』

0531『グリーンフィンガー 〈約束の庭〉』
 ポール・メイ作 横山和江訳 さ・え・ら書房
 ISBN 978-4-378-01479-1 定価(本体1700円+税)

 2002年度カーネギー賞ロングリスト作品である、『グリーンフィンガー〈約束の庭〉』の邦訳が刊行された。

 タイトルにあるように、物語の大事な舞台は庭。
 主人公ケイトが庭で大きな成長をとげていく物語だ。

 ケイトの家族は、父親の提案によりロンドンの都会から、田園風景広がる田舎町に引っ越すことになる。ケイトはちっともうれしくなかった。どこの学校に行っても、読み書きに問題があることで、先生やクラスメイトといい関係がつくれないからだ。母親も、今度の学校こそはケイトにあうものであって欲しいと願っている、が、田舎に住みたいとは考えられない。ロンドンでの自分の仕事は経済的にも満足できるもので、田舎でいまの働きと同じお給料をもらえる仕事を得るのが難しいことをよくわかっているからだ。

 けれど父親はロンドンではなく、田舎の広い家で自分の仕事をしたい。コンピュータを使って自営していく意欲をもっている。ふたりの価値観は3人の子ども(ケイトには弟と妹がいる)を育てるという共有すべきものがあるにも関わらず、どんどん険悪になっていく。

 ケイトは両親に別れてほしくない。結局父親と子どもは田舎の家で暮らし、平日にロンドンで仕事をし、週末だけママが帰ってくる生活になる。ママがいない家はいや。パパの仕事も成功してほしいけれど、ママが好む機能的な家にするべく一日も早くリフォームしてほしいとケイトは願っている。ママの好きなものが家にあれば、平日もロンドンに行かず一緒にいてくれるのではと期待するのだ。

 そんな両親に気がいっているせいか、ケイトは田舎での新しい学校では前の時と違ってトラブルを起こさずに過ごすことができた。相変わらず、先生がケイトにもっている前の学校での〈問題児〉という先入観のせいで、学校生活は楽しくはない、けれど、ルイーズという友だちができそうな気配もある。ルイーズは、隣人ウォルター氏の孫娘。ごつごつした手をもつウォルターは自分のその手を「グリーンフィンガーをもっている手だ」とケイトにいう。庭仕事など今までまったく興味をもったことはないケイトだったが、ママが庭をもつことが夢だったことを知り、ウォルターからいろいろ教わり、庭で過ごす時間が増えていった。

 児童文学で登場する魅力的な大人は、たいていの場合、子どものよき相談相手であり、大きくつつんでくれる。けれど、この物語では、そこまで懐の深い大人はいない。そのことに読んでいて、大丈夫かしらと不安になってくるほどだったが、考えてみると、実際の生活で、理想的な大人に支えてもらうことの方が少ないかもしれない。ページをくるごとに、イギリスが舞台でありながら、日本でも十分に考えられるシチュエーションの数々にすっかり引き込まれて読んでいった。母親の心の揺れも切なく、父親が安易に結論を急がず、時間をかけて家族のつながりを深めていく姿も印象的だ。仕事の満足と家庭の幸福を両立されること。夫婦間での価値観のずれ。両親であるふたりは多いに悩み、それでも子どもにおもねることなく、未来をみていこうとする。

 家族のお荷物は自分ではないかという引け目、識字問題のストレス、重たいものを抱えるケイトの心情も丁寧に描かれ、最初は好きになれそうになかった田舎の町、家――そこでの庭仕事を通して気づく自分を受け入れていくケイトの姿はリアリティをもって読み手に近づく。

 登場人物それぞれみんなが、苦しみながらも後ろ向きになることはない。最後はせつないけれど、とてもリアルに響く言葉が残される。

 ■作者公式サイト[Link]

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コメント

横山さん

コメントありがとうございます。そして詳しい説明も。
今日から配本なのですね。
たくさんの人たちに読まれますように!

makiさん

いちばん作品を読み込まれ大事にされている訳者の方からコメントをいただけて私もうれしいです♪

確かに引っ越ししたかどうか言葉足らずのところがありましたので、追記しました。ありがとうございます!

>横山様

はじめまして。翻訳者の方から直接コメントをいただけるとは思いませんでした!丁寧にありがとうございます。
ケイトは結局ファームへ引っ越していくんですね。勘違いしていました。本書を購入して本編もあとがきもゆっくり拝読させていただきたいと思います(^^)。

さかなさん
 すてきにご紹介くださり、感激です! 出版に向けての作業はほぼ1年になりますが、原書を見つけてからは3年以上になるでしょうか。配本は3日からとお伺いしているので、都内には今週中に並んでくれるかしらと思っています(地元ではどうかなあ)。

makiさま
 はじめまして。主人公の一家はロンドンから車で3時間かかる田舎へ引っ越し、築300年の古い家での暮らしをはじめます(ファームハウスというらしいです)。その家に以前はあった荒れた庭をケイトが再生していく物語であるとともに、家族の(おもに夫婦の)再生物語でもあります。作者は読み書きが不得意なお子さんを長年教えていらしたそうですが、ケイト自身をディスレクシアと断定して書いたわけではないと教えていただきました(そのあたりはあとがきに書かせていただきました)。

BUNさん
 表紙を気に入っていただけて感激です! この表紙は作品中のイラストに装丁の方が彩色してくださったものです。本文中のイラストは白黒ですが、どれもとても素敵です。お時間ができましたらご感想をお聞かせいただきたいです~

BUNさん

ふふ、ウルトラマンもおすすめです。
表紙の庭、美しく描かれていますよね。作品もピリっとした現代の空気を感じるところがあります。7月といってもすぐすぐ。もう来月のことですもの。なんて時間のたつのは早いのだろう。

表紙が美しいですねー。タイトルもいいな。
すばらしい紹介文で、早く読みたい気持ちでいっぱい。
7月までがまんかなー。「最近読んだ本」に出ているウルトラマンくんにも誘われてる気がします(笑)。

makiさん

そうです、イギリスの児童文学。日本では初紹介の作家さんですね。
ディスレクシアという言葉を物語の中では直接使っていませんが、主人公のケイトはおそらくそうでしょう。英米の児童文学でディスレクシアの子どもが出てくるのを読むときがあります。児童文学においても、日本の作品では、社会のこと、傷害のことが物語に自然になじんでいるものが少ないように感じています。

この物語、大人たちが独特の存在感がありました。ぜひぜひ読んでみてくださいませ。

「庭」と聞いて、もしかして?と思ったらやはりイギリスの小説だったんですね。いつかテレビで見ましたが、ディスレクシア(文字を読むことに困難をもつ障害)のための授業やクラスが、イギリスではきちんと用意されているそうです。
日本では目にしたことはありませんが…。
ケイトがロンドンで作っていく「庭」がどんなものなのかとても興味がありますね。

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