上等なシャンパン
登場する人物たちの会話に耳をそばだてているうちに、あっというまに最後のページでした。たっぷりの会話と、丁寧な情景描写が、ゆっくりと気持ちを小説の中にとけこませてくれます。たった1冊しか刊行しなかった小説家がいました。その本に惚れ込み、小説家の伝記を書きたいと思う若者が、遺族に公認を取り付けようと手紙をしたためる、そこから彼らの人生がうねりはじめました。
不幸も幸福も長く続かない、とすれば、生きている時間にもつ感情はなにが大半をしめているのでしょうか。不幸と幸福の、そのはざまを過ごしている時間。どちらかにうつったのがわからないかと思うくらいの日々が日常というものかもしれません。
若者は公認を最初は断られます。断られたので手紙ではなく、直接遺族に会って気持ちを変えてもらおうとします。はたして、3人の遺族らは(もともと1人は公認に賛成でしたが)、若者とどう対峙していくのか。急がない展開、それでいて、場面が変わった時のドラマチックさ。小説のおもしろさがぞんぶんにつまっていました。読後は上等なシャンパンがほしくなります。
Amazy |
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