ピーターと象と魔術師
『ピーターと象と魔術師』
ケイト・ディカミロ作 長友恵子訳 岩波書店 ISBN 978-4-00115635-5 本体1700円
深く強く望むこと、それは何か大きな力がうごくこと。
幻想的な表紙は魔術師が大きな象を観客の前に出しているシーン、複雑な奥行きのある色合いが物語の神秘さを象徴してるかのよう。ちなみに装画はロサンゼルス在住の日本人画家が描いています。
主人公、ピーターは生死のわからない妹の行方をずっと気にかけていました。両親はすでに亡くなっており、父親は戦場で命を落とし、そのときの部下であるルッツ氏がピーターを一人前の兵士しようと共に生活をしています。しかし、いまや年老いた元兵士のルッツ氏はピーターを幸せにはしてくれません。妹が死んだと伝えたのもルッツ氏です。けれど、ピーターは一縷の望みをかけて占い師に聞いてみることにしました。占い師の話を聞いてから、ピーターの望みは具体的になり、それは日を追うごとに強くなっていき……。
あり得ないことが目の前でおきたならば、もしかして本当のことはいままで思っていたことではなかったのかと、くるりと気持ちが反転する不思議さが、この物語には満ちています。ピーターが占い師から聞いたキーワードは突拍子もないものでした。しかし、動き始めた物語では、ごく自然にその不思議さがとけこんでいます。どうなるのだろう――読んでいくうちに物語のもつ空気にすっぽり入り込み、しめくくりもとても腑に落ちるものがありました。
どのページの挿絵もすてきで深い余韻を残します。願い事ができたとき、再読したくなる物語です。
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