このたび東京創元社では、日本で最初に〈ラング世界童話全集〉を刊行した出版社として、今回まったく新しい編集、新しい訳で、この〈アンドルー・ラング
世界童話集〉を刊行することになりました。すべて、原書の各巻より収録作品を選び直し、昔話としての持ち味や雰囲気を壊さないように、と同時に現代の子ど
もたち(もちろん大人も)も面白く読めるように工夫して翻訳しました。
こんなすてきな挨拶とともに、ラングの童話集が本当に美しい姿で読者の前にあらわれました[版元Link]。東京創元社からポプラ社、偕成社文庫と移りかわりながらずっと読者の近くにいたラングが、今度は最初の東京創元社にもどり、15人の新進翻訳家の訳と西村醇子さん監修のもと刊行されたとあれば、昔話好きにとっては読まずにはおられますまい。
子どもの頃は偕成社文庫で親しんだラング。あおいろとあかいろで始まるこの2冊、まだ全部は読めていません。読むのが速い方の私ですが、昔話、民話だけは、一気読みができないのです。骨太でたっぷりとした楽しみがあり、それぞれの話にコクがあるので、余韻を楽しむためにも、まずはちびりちびりと子どもと共に、そして私ひとりでとじっくり味わっています。
ひじょうにうれしいのは、総ルビだということ。漢字が読めなくても、ルビがあれば子どもも読めます。少しずつ読んでいくと、訳も、昔話らしい素っ気なさがより話をくっきりさせ、すっと入り込んで楽しめます。短い話もあれば長い話もあり、子どもの頃は出典などまるで意識していませんでしたが、アラビアン・ナイト、ペロー、アスビョルンセンとJ・モーなど、多種多様な話が収録されているのには、あらためておどろきました。
総ルビだからといって、子どもにおもねた文章ではないことも、うれしいことです。子どもから大人まで楽しめる文体になっていて、おもしろおかしくしようとした、騒々しさや華美はありません。挿画も英国での最初に刊行されたものを使われたとあり、これもまた美しい絵です。
ちょうど今日届いた、岩波書店のPR誌「図書」2月号で脇明子さんが「人間を育てる物語の力」と題されてこう書かれています。
人間は物語を語ることによって世界について考え、現実と折りあいをつけ、新たな可能性を探りながら、知性の領域を広げてきた。昔話や神話や伝説のなかには、似ているけれど少しずつ違う筋書きやモティーフが数限りなくあるが、それらを次から次へと辿っていると、物語は、創作された文学作品を含めて、どれひとつとして孤立したものではなく、私たちがつかもうとしている世界の全体像に、それぞれの角度から迫ろうとした試みなんだと思えてくる。
だからこそ物語は、子どもが人間になっていくために、ぜひとも必要なものだ。骨太な昔話で物語というものの基本をつかみ、それを足がかりに創作文学の豊かな世界へ分け入れば、人間を知り、自然を味わい、自分の心というやっかいなものを理解する糸口さえ見出すことができる。
このラング童話集は、子どもにとっても大人にとっても、いまを生きる力になるでしょう。少しずつ読みながら、感じたことを書いていきたいと思っています。
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