民話・昔話

2008.11.02

カナリア王子

カナリア王子―イタリアのむかしばなし (福音館文庫 F 15)

 夜はお布団に一緒に横になって『カナリア王子』に収録されている表題作を読みました。これは福音館文庫です。福音館文庫の昔話ラインナップはとっても充実しているので、どれもオススメ。イタリアのむかしばなし、イタロ・カルヴィーノ再話の本書は、1969年に福音館書店の単行本と出ていたもので、今年2008年10月に文庫化されたもの。お値段も手頃ですし、安野光雅さんの挿絵もとっても美しい。軽いので、ねっころがって読むのにも適しています。

 安藤美紀夫さんの訳は語りかけるような、ですます調のやさしい雰囲気で、ちびちゃんには少し長いかなと思ったのですが、まんなかの子とふたり、まま母の意地悪にハラハラし、カナリア王子や、城にとじこめられているお姫様がどうなるか、耳をすませて聞いていました。読み終わると「まま母さんは意地悪だったー!」とちびちゃん。「ハラハラした」とまんなかの子。

 ちなみにこの話は、岩波書店から出ている『みどりの小鳥 ―イタリア民話選』にも入っています。河島英昭さんの訳で、こちらは、である調。またおもむきが変わるので、読み比べるのもおもしろいです。『イタリア民話集(上下巻)』(岩波文庫)は大人向けで、ここに入っている「カナリア王子」は児童書と同じ訳で違うのは漢字がひらがなに置き換わっていることぐらいのようです。上下で75編収録されていて、民話好きにはうれしい本。上巻巻末には、カルヴィーノの「民話を求める旅」、下巻巻末には、河島英昭氏による「民話と文学」も収録されています。

 

2008.10.20

はなたれこぞうさまと漁師とおかみさん

はなたれこぞうさま (てのひらむかしばなし)

 てのひらむかしばなしむかしばなしの第二集がではじめました。
 これは3冊刊行された内の1冊です。
 善行を積んだおじいさんの元に、はなたれこぞうさまが授けられるのですが、さて、どうなりますか。

 だいすきな『漁師とおかみさん』に通じる、人の欲深さがよくでていて、くすりとさせられます。子どもたちも、これ、あのおかみさんに似てるね。でも、今度のは、おばあさんじゃなくておじいさんなんだね、とおもしろそうに聞いています。

 ペーパーバックの装丁ではなく、版型は小さいもののしっかりした丁寧なつくりのこのシリーズ。これをさきがけに、他の版元からも昔話の絵本がいくつか出ています。昔話といっても、さまざま。語り口や展開で、もたらすものがおおきく違ってきます。このシリーズがどんなラインナップをそろえていくのか楽しみです。

2008.07.27

想像の泉

アンドルー・ラング世界童話集  第5巻  ももいろの童話集

 東京創元社のラングの童話集も、5巻目になりました。毎回すばらしい表紙です。本書の「ももいろ」も、とてもとても美しい!
 「小さな妖精と食料品屋」(出展 ハンス・アンデルセンのドイツ語翻訳 杉田七重訳)の挿絵がそれです。学生が住んでいたのは、家の屋根裏部屋でした。1階では食料品屋が営まれ、小さな妖精ゴブリンは欲しいものがもらえるこの食料品屋を自分の場所と決めていました。ひょんなことから、ゴブリンは興味をもっていなかった屋根裏部屋をのぞくことになりました。そこで見えた光景が、この表紙です。学生が読んでいるのは詩集。そのページからどんな美しいものが、ゴブリンの目に見えたのでしょう。たとえ、ぼろぼろな本でも、そこにつづられた文字からは、美しい光景をたちのぼらせます。ああ、素敵と、本書の冒頭におさめられているこのお話を数回繰り返して読みました。

 アンデルセンのこの話――福音館文庫になった『人魚姫』にもおさめられており、その話は読んではいるのですが、今回読んだほど心に響いてきていませんでした。こちらの『人魚姫』の表紙も「人魚姫」ではなく、「ももいろ」と同じく「食料品屋の小人」です。画家は国際アンデルセン賞画家賞を受賞しているイブ・スパング・オルセン。この話でのこの場面、絵にせずにはいられない魅力があるのでしょう。

2008.01.31

アンドルー・ラング世界童話集刊行開始

 

 このたび東京創元社では、日本で最初に〈ラング世界童話全集〉を刊行した出版社として、今回まったく新しい編集、新しい訳で、この〈アンドルー・ラング 世界童話集〉を刊行することになりました。すべて、原書の各巻より収録作品を選び直し、昔話としての持ち味や雰囲気を壊さないように、と同時に現代の子ど もたち(もちろん大人も)も面白く読めるように工夫して翻訳しました。

 こんなすてきな挨拶とともに、ラングの童話集が本当に美しい姿で読者の前にあらわれました[版元Link]。東京創元社からポプラ社、偕成社文庫と移りかわりながらずっと読者の近くにいたラングが、今度は最初の東京創元社にもどり、15人の新進翻訳家の訳と西村醇子さん監修のもと刊行されたとあれば、昔話好きにとっては読まずにはおられますまい。

 子どもの頃は偕成社文庫で親しんだラング。あおいろとあかいろで始まるこの2冊、まだ全部は読めていません。読むのが速い方の私ですが、昔話、民話だけは、一気読みができないのです。骨太でたっぷりとした楽しみがあり、それぞれの話にコクがあるので、余韻を楽しむためにも、まずはちびりちびりと子どもと共に、そして私ひとりでとじっくり味わっています。

 ひじょうにうれしいのは、総ルビだということ。漢字が読めなくても、ルビがあれば子どもも読めます。少しずつ読んでいくと、訳も、昔話らしい素っ気なさがより話をくっきりさせ、すっと入り込んで楽しめます。短い話もあれば長い話もあり、子どもの頃は出典などまるで意識していませんでしたが、アラビアン・ナイト、ペロー、アスビョルンセンとJ・モーなど、多種多様な話が収録されているのには、あらためておどろきました。

 総ルビだからといって、子どもにおもねた文章ではないことも、うれしいことです。子どもから大人まで楽しめる文体になっていて、おもしろおかしくしようとした、騒々しさや華美はありません。挿画も英国での最初に刊行されたものを使われたとあり、これもまた美しい絵です。

 ちょうど今日届いた、岩波書店のPR誌「図書」2月号で脇明子さんが「人間を育てる物語の力」と題されてこう書かれています。

 人間は物語を語ることによって世界について考え、現実と折りあいをつけ、新たな可能性を探りながら、知性の領域を広げてきた。昔話や神話や伝説のなかには、似ているけれど少しずつ違う筋書きやモティーフが数限りなくあるが、それらを次から次へと辿っていると、物語は、創作された文学作品を含めて、どれひとつとして孤立したものではなく、私たちがつかもうとしている世界の全体像に、それぞれの角度から迫ろうとした試みなんだと思えてくる。
 だからこそ物語は、子どもが人間になっていくために、ぜひとも必要なものだ。骨太な昔話で物語というものの基本をつかみ、それを足がかりに創作文学の豊かな世界へ分け入れば、人間を知り、自然を味わい、自分の心というやっかいなものを理解する糸口さえ見出すことができる。

 このラング童話集は、子どもにとっても大人にとっても、いまを生きる力になるでしょう。少しずつ読みながら、感じたことを書いていきたいと思っています。

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